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つながりブログ

2026年08月のブログ記事一覧

紫色の手になって学んだ医者の原点

2026.08.15 ブログ

西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
当院の「つながりブログ」をご覧いただき、誠にありがとうございます。

聖路加病院でレジデント(研修医)として働き始めた1年目の時、私が今も大切にしている、医師としての姿勢を授けてくださったチーフレジデントがいらっしゃいました。チーフレジデントとは、レジデント全体の統括と教育を担うと同時に、病床全体の管理や緊急入院の初期マネージメント、他科からの診療依頼など、診療全体を支える中心的な役割で、研修4~5年目の医師から選ばれていました。大変アグレッシブで、常に努力を怠らず、何事にもスマートで、我々下級レジデントの面倒をとてもよく見てくださった、憧れの存在でした。

その先生から言われた言葉があります。

「医療面接、身体所見、単純レントゲン、心電図、グラム染色だけで勝負できる医者になれ」

グラム染色とは、感染症診療の基本で、細菌感染症の病原体を特定するのにとても有用な検査法です。細菌を染色液で染めて顕微鏡で観察し、何色に染まっているかで細菌の種類を見分けることができます。当時の聖路加病院には、レジデント自らグラム染色を行うことができる部屋があったため、私を含め新米レジデントは、先生の教えに従い、患者さんから喀痰や尿などを採取して集まり、手を紫色に染めながら(染色液の色です)、病原となっている細菌を見つけようと必死になっていました。

その当時でも、超音波検査やCT、MRIといった画像診断はありましたし、現在ではAIが診断のサポートをしてくれるという時代になってきています。しかし、医療面接と身体所見は、医師の技術として基本中の基本です。患者さんの話を丁寧に聞き、手を当てるだけでわかることがたくさんあります。

また、単純レントゲンや心電図を読影、判読できることは、内科医にとってとても大切な能力です。これらは、大きな病院でなくても行える、とてもアナログな検査ですが、必要最小限の武器として重要な役割を果たしてくれます。その結果、精密検査が必要と判断した場合、当院では専門の臨床検査技師による超音波検査や24時間ホルター心電図などを行っています。また近隣の検査専門センターと連携してCT、MRIなどの画像診断を行い、その結果を説明することも可能です。

患者さんにとって最小限の負担で、そのため情報が限られるとしても、最大限の結果を出す。それが我々医師に最も求められていることです。グラム染色は、当院に検査設備がなく、臨床的な有用性も薄れつつあることなどから、さすがに現在は行っていませんが、先生に教わった言葉を胸に、医師としての基本姿勢を忘れず、これからも地道に努力していきたいと思います。

ちなみにその先生はいま、某大学の教授として活躍されています。

のどのイガイガと長引く咳③ 胃食道逆流症

2026.08.01 ブログ

西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
「つながりブログ」をご覧いただき、ありがとうございます。

「のどがイガイガする、かゆくなる、痰が絡んだ感じがして咳が出る」という、咽喉頭異常感症を伴う咳の原因としてこれまで、アトピー咳嗽と後鼻漏を取り上げました。もうひとつ、この症状を起こす代表的なものがあります。それが胃食道逆流症です。

胃食道逆流症は、胃酸や内容物が食道へ逆流することにより、胸やけや胃もたれなどの症状が起きる疾患です。胃酸の逆流でなぜ咳が出るのか? それには2つのメカニズムが考えられています。

一つはreflux theoryと言われています。脂っこい食事の後や就寝前に飲食したとき、また食道裂孔ヘルニア(胃の一部が食道側に飛び出ている)や睡眠時無呼吸症がある場合には、逆流が起こりやすく、逆流した胃酸などが咽喉頭や気道を直接刺激するため、食後や横になったときに咳が出ることが多いとされています。特に男性や喫煙者、肥満がある人は、逆流しやすい傾向があります。胸やけや胃もたれなどの消化器症状が強いことが特徴で、胃内視鏡検査で逆流性食道炎を指摘されることも多いです。

もう一つはreflex theoryと言われ、胃酸や内容物の逆流が食道の下部にある咳のセンサー(咳受容体)を刺激することで咳が生じるというものです。やせ型の女性に多く、日中の断続的な咳が中心で、消化器症状は乏しいとされています。胃内視鏡で検査しても炎症所見がなく、非びらん性胃食道逆流症と診断されることが多くあります(びらん=ただれ)。

当院では、咳問診の結果、胃食道逆流症の疑いがある方には、追加で「Fスケール」という問診票に記入していただいています。Fスケールとは胃食道逆流症の有無を簡便に評価する問診票で、合計点(24点満点)が8点以上の場合は60%、10点以上の場合は70%程度の確率で、胃内視鏡で逆流性食道炎と診断されるとされています。そのため、咳の原因が胃食道逆流症かどうかを判断するための手軽なチェック方法として活用しています。

治療には、禁煙、減量、食事内容やタイミングの是正といった生活習慣の見直しのほか、胃酸の産生を抑制する、胃の中に食物が滞留しないよう消化管の運動を促進する、食道や胃の粘膜を保護するといった作用を持つ薬を症状に合わせて使用します。逆流症状の強い方には、消化器科での胃内視鏡検査をお勧めしています。

胃食道逆流症は、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、睡眠時無呼吸症との合併が多く、これらの病気がつながって難治性の長引く咳の原因となっていることを「咳の三重奏、四重奏」と評する論文もあります。喘息や無呼吸症の治療をしてもなお咳が続く場合、胃食道逆流症が潜んでいることがあります。長引く咳でお困りの患者さんのご来院をお待ちしております。