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紫色の手になって学んだ医者の原点
2026.08.15 ブログ
西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
当院の「つながりブログ」をご覧いただき、誠にありがとうございます。
聖路加病院でレジデント(研修医)として働き始めた1年目の時、私が今も大切にしている、医師としての姿勢を授けてくださったチーフレジデントがいらっしゃいました。チーフレジデントとは、レジデント全体の統括と教育を担うと同時に、病床全体の管理や緊急入院の初期マネージメント、他科からの診療依頼など、診療全体を支える中心的な役割で、研修4~5年目の医師から選ばれていました。大変アグレッシブで、常に努力を怠らず、何事にもスマートで、我々下級レジデントの面倒をとてもよく見てくださった、憧れの存在でした。
その先生から言われた言葉があります。
「医療面接、身体所見、単純レントゲン、心電図、グラム染色だけで勝負できる医者になれ」
グラム染色とは、感染症診療の基本で、細菌感染症の病原体を特定するのにとても有用な検査法です。細菌を染色液で染めて顕微鏡で観察し、何色に染まっているかで細菌の種類を見分けることができます。当時の聖路加病院には、レジデント自らグラム染色を行うことができる部屋があったため、私を含め新米レジデントは、先生の教えに従い、患者さんから喀痰や尿などを採取して集まり、手を紫色に染めながら(染色液の色です)、病原となっている細菌を見つけようと必死になっていました。
その当時でも、超音波検査やCT、MRIといった画像診断はありましたし、現在ではAIが診断のサポートをしてくれるという時代になってきています。しかし、医療面接と身体所見は、医師の技術として基本中の基本です。患者さんの話を丁寧に聞き、手を当てるだけでわかることがたくさんあります。
また、単純レントゲンや心電図を読影、判読できることは、内科医にとってとても大切な能力です。これらは、大きな病院でなくても行える、とてもアナログな検査ですが、必要最小限の武器として重要な役割を果たしてくれます。その結果、精密検査が必要と判断した場合、当院では専門の臨床検査技師による超音波検査や24時間ホルター心電図などを行っています。また近隣の検査専門センターと連携してCT、MRIなどの画像診断を行い、その結果を説明することも可能です。
患者さんにとって最小限の負担で、そのため情報が限られるとしても、最大限の結果を出す。それが我々医師に最も求められていることです。グラム染色は、当院に検査設備がなく、臨床的な有用性も薄れつつあることなどから、さすがに現在は行っていませんが、先生に教わった言葉を胸に、医師としての基本姿勢を忘れず、これからも地道に努力していきたいと思います。
ちなみにその先生はいま、某大学の教授として活躍されています。
のどのイガイガと長引く咳③ 胃食道逆流症
2026.08.01 ブログ
西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
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「のどがイガイガする、かゆくなる、痰が絡んだ感じがして咳が出る」という、咽喉頭異常感症を伴う咳の原因としてこれまで、アトピー咳嗽と後鼻漏を取り上げました。もうひとつ、この症状を起こす代表的なものがあります。それが胃食道逆流症です。
胃食道逆流症は、胃酸や内容物が食道へ逆流することにより、胸やけや胃もたれなどの症状が起きる疾患です。胃酸の逆流でなぜ咳が出るのか? それには2つのメカニズムが考えられています。
一つはreflux theoryと言われています。脂っこい食事の後や就寝前に飲食したとき、また食道裂孔ヘルニア(胃の一部が食道側に飛び出ている)や睡眠時無呼吸症がある場合には、逆流が起こりやすく、逆流した胃酸などが咽喉頭や気道を直接刺激するため、食後や横になったときに咳が出ることが多いとされています。特に男性や喫煙者、肥満がある人は、逆流しやすい傾向があります。胸やけや胃もたれなどの消化器症状が強いことが特徴で、胃内視鏡検査で逆流性食道炎を指摘されることも多いです。
もう一つはreflex theoryと言われ、胃酸や内容物の逆流が食道の下部にある咳のセンサー(咳受容体)を刺激することで咳が生じるというものです。やせ型の女性に多く、日中の断続的な咳が中心で、消化器症状は乏しいとされています。胃内視鏡で検査しても炎症所見がなく、非びらん性胃食道逆流症と診断されることが多くあります(びらん=ただれ)。
当院では、咳問診の結果、胃食道逆流症の疑いがある方には、追加で「Fスケール」という問診票に記入していただいています。Fスケールとは胃食道逆流症の有無を簡便に評価する問診票で、合計点(24点満点)が8点以上の場合は60%、10点以上の場合は70%程度の確率で、胃内視鏡で逆流性食道炎と診断されるとされています。そのため、咳の原因が胃食道逆流症かどうかを判断するための手軽なチェック方法として活用しています。
治療には、禁煙、減量、食事内容やタイミングの是正といった生活習慣の見直しのほか、胃酸の産生を抑制する、胃の中に食物が滞留しないよう消化管の運動を促進する、食道や胃の粘膜を保護するといった作用を持つ薬を症状に合わせて使用します。逆流症状の強い方には、消化器科での胃内視鏡検査をお勧めしています。
胃食道逆流症は、喘息やCOPD(慢性閉塞性肺疾患)、睡眠時無呼吸症との合併が多く、これらの病気がつながって難治性の長引く咳の原因となっていることを「咳の三重奏、四重奏」と評する論文もあります。喘息や無呼吸症の治療をしてもなお咳が続く場合、胃食道逆流症が潜んでいることがあります。長引く咳でお困りの患者さんのご来院をお待ちしております。
まんまる人間とでこぼこ人間 ―敬愛する安部公房へ寄せて―
2026.07.15 ブログ
西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
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高校時代、安部公房の「砂の女」を読んだことをきっかけに、彼の作りだす「異様な世界」で苦悩し、懸命に生きようとする人間たちに衝撃をうけました。到底かなうものではないですが、今回は、いまだ尽きぬ彼への憧れを込めて、私の中の安部公房を書いてみたいと思います。
生来の気質や、育った環境によって、人間は二つのタイプになる気がします。
誰にでも当たり障りなく接して、相手の気持ちを第一に、不快な気持ちにさせないことを最重要事項として行動する「まんまる人間」。
仕事も柔軟にそつなくこなし、常に控えめでいるので、人当たりがよく、誰にでも好かれて頼りにされる人間です。
しかしまんまるゆえ、自分の意見、思想に関係なく、相手次第でコロコロと転がるので、時には全く反対の考え方にも賛同してしまい、「便利屋」として使われてしまっていることもありますし、しまいには、自分の意見や考え方自体がコロコロ転がるようになって、周囲からは「あの人は、自分の意思がない迎合主義」といわれるようになってしまいます。
そんなまんまる人間の正反対が、「でこぼこ人間」。
でこぼこ人間は、人付き合いにも、興味の対象にも、日々の生活にもでこぼこがあります。愛想なく、自分の意思を曲げずに、転がることなく自分の位置に留まるので、周りからは「近づきにくくて、分かりにくい人」と疎まれることもあります。それ故に衝突し、孤立して、生活も乱れがちです。
しかし、意を同じくする人、興味を持つこととは強い絆が生まれます。確かに生活は乱れているかもしれませんが、寝食を忘れて物事に取り組むので、誰も考えつかないイノベーションをもたらすことがあります。
もしかすると、まんまる人間はでこぼこ人間を「変人」と思う一方で、どんなことがあってもブレない生き方に憧れを持つかもしれませんし、でこぼこ人間は、まんまる人間を「迎合主義」と思う一方で、常に人の気持ちを考えるバランス感覚や人に好かれることを羨ましく思っているかもしれません。
でも長い人生、まんまる人間もでこぼこ人間もずっとそのままでいることはできません。社会という砂との衝突によって、自らの輪郭が変容していくことを受け入れていくのです。
まんまる人間のまんまるな表面は、砂との摩擦ででこぼこになり、なかなか転がらなくなって止まることが多くなります。その時、まんまる人間は、でこぼこ人間の、他人に左右されずブレない生き方を理解できるようになるのではないでしょうか?
反対に、でこぼこ人間のでこぼこな表面は、砂によって次第にすり減って角がとれ、少しずつ丸くなります。その時、でこぼこ人間は、まんまる人間の摩擦を起こさず、他者を大切にする生き方を理解できるようになるのではないでしょうか?
私は明らかに「でこぼこ人間」です。でこぼこした自分を受容しながら、「独りよがりで不寛容という角」の取れたでこぼこ人間になっていきたいと思っています。
のどのイガイガと長引く咳② 後鼻漏
2026.07.01 ブログ
西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
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前回、「のどのあたりが痒い、イガイガする(=咽喉頭異常感症)」を伴う咳の原因としてアトピー咳嗽(がいそう)を紹介しました。「のどがイガイガする、かゆくなる、痰が絡んだ感じがして咳が出る」という症状を起こすのは、アトピー咳嗽だけではありません。代表的なものに後鼻漏(こうびろう)と胃食道逆流症があります。今回は後鼻漏についてお話しします。
後鼻漏は、読んで字のごとく、「後ろ=のどへ鼻汁が漏れる」状態を表します。のどに流れ落ちた鼻汁が咽頭にある咳受容体を刺激することで、咳が生じます。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎によって起きることが多く、口を大きく開けてもらい、のどの奥をみると、実際に鼻汁が流れている様子を観察できることもあります。アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎の治療歴をお持ちの患者さんが「のどに痰が絡んだ感じが取れなくて咳払いをしたくなる」「喉の奥に水のようなものが流れている感じがする」「喉がイガイガして咳をしたくなる」などと訴えられた場合、まず考えられるのが後鼻漏です。
治療は、後鼻漏の原因となっている病気に合わせて行います。アレルギー性鼻炎であれば抗ヒスタミン薬、副鼻腔炎であれば抗菌薬といったように原因に応じて薬を使い分けます。重度の副鼻腔炎では手術が検討されることもあるため、耳鼻科へご紹介をします。
副鼻腔炎は喘息に併発することも多く、特に好酸球性副鼻腔炎という、喘息と同じタイプのアレルギー性副鼻腔炎には注意が必要です。好酸球性副鼻腔炎は、後鼻漏のほか鼻茸、ひどい鼻づまり、膠(にかわ)のようなべっとりとした鼻汁、嗅覚障害などがみられる、難病指定の副鼻腔炎です。手術療法のほか、生物学的製剤の注射もとても効果があります。好酸球性副鼻腔炎が疑われる場合には副鼻腔CTを行い、咳の治療と耳鼻科での治療を合わせて進めていくことが重要です。
実は私も、喘息に加えてアレルギー性鼻炎による後鼻漏がひどく、日々咳払いと声がれに悩まされていて、抗アレルギー薬のお世話になっています。
「St. Luke’s MD」に憧れて――山形から東京へ
2026.06.15 ブログ
西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
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1994年3月に山形大学医学部を卒業した私は、4月から東京・築地の聖路加国際病院で、内科研修医として働き始めました。はるばる山形から東京のど真ん中の病院を目指したのには二つの理由がありました。
一つ目はかなり真面目な理由でした。当時は、医学部を卒業したら、そのまま大学の医局に入局して研修を始めるのが一般的でした。自身の専門分野を深めていくにはとてもいいシムテムなのですが、一方で、それ以外の知識や技術を得るのが難しくなってしまう側面もありました。私は、内科医として成長するには外科や小児科、産婦人科、放射線科などを現場で幅広く学ぶことが大切だと考えていました。例えば、自分が虫垂炎だと診断した患者さんが、その後どのような手術、術後経過を経て退院していくのかを理解しておく必要があると思っていたからです。また、内科医にとって、胸部や腹部のレントゲン・CTを読影する能力は欠かせません。放射線科でその力をきちんと身につけたいとも考えていました。こうした専門分野にとどまらない幅広い研修プログラムを提供してくれる病院を探していたところ、聖路加国際病院にたどり着いたというわけです。
もう一つは少し不真面目というかミーハーな理由でした。インターネットもない時代ですから、山形から上京して病院見学へ行きました。その当時の聖路加国際病院は、できたばかりのピカピカの建物で、病棟は全室個室、内装もモダンで洗練されていて、田舎の古びた病院しか知らない私は、ただただ圧倒されてしまいました。そして何より、そこで働く先生方がとても優秀で、殿上人のようにまぶしかったのです。しかも白衣の胸ポケットにある「St. Luke’s MD」という刺繍がまたなんともかっこよく、「自分もあれを着て仕事したい」という思いが湧いてきたのでした。
山形に戻った私は、早速、募集要項を取り寄せ、選抜試験と面接を何とかくぐり抜け、内科レジデントとして採用されました。こうして片田舎の医学生は、歴史ある聖路加国際病院で、医師としての第一歩を踏み出したのでした。
のどのイガイガと長引く咳① アトピー咳嗽
2026.06.01 ブログ
西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
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当院の咳問診に、「咳が出るときにのどの周辺が痒くイガイガするような感覚がありますか」という項目があります。のどの辺りが痒い、イガイガする――これらを「咽喉頭異常感症」といいます。咳がなかなか治らないと、「何か肺や気管支の病気になってしまったのでは」と考える方が多いと思いますが、咽喉頭異常感症がある場合、気管支や肺以外に原因があることが少なくありません。
その一つにアトピー咳嗽(がいそう)という病気があります。一般の方にはあまり馴染みのない名称だと思いますが、「アトピー」とついていることからも分かるように、アレルギーが関係している長引く咳です。アトピー咳嗽の定義は「花粉症などのアレルギー体質を持ち、季節の変わり目や天候の変化で悪化し、夜間を中心とした乾性咳嗽が続く」。一見、喘息と似ています。しかし喘息と違って気管支拡張薬を使用しても咳が止まらないことが特徴です。一方、アレルギーを抑える抗ヒスタミン薬は効果を発揮します。また、継続的な治療の必要がないことも、症状が軽快しても治療を続けることが推奨される喘息との違いです。アトピー咳嗽は、アレルギーの炎症によって咳のセンサーである咳受容体が過敏になり、「のどにじんましんができて、イガイガかゆくて咳が出る」とイメージをしていただくとわかりやすいかと思います。
ただアトピー咳嗽も喘息も、咳受容体が過敏になって咳が出るというメカニズムを共有していること、両者を明確に判定するためには一部の専門施設でしかできない特殊な検査を必要とすることから、実際の診察では確実に区別できない場面にしばしば遭遇します。特に抗ヒスタミン薬があまり効かない患者さんの場合は、喘息と同様に吸入ステロイドを使っていただくので、ステロイドが効いて咳が治った後に、ではこの患者さんは喘息だったのかアトピー咳嗽だったのか、治療の経過から判断するのはなかなか難しいのです。
私は、地域のクリニックでの咳の治療で大切なことは、診断にこだわることではなく、ある程度の根拠をもって、辛い咳をできる限り早く止めることだと思っています。喘息とアトピー咳嗽は、区別して診断するのが難しいからこそ、呼吸器を専門とする医者にとって、限られた情報のなかで患者さんにとって最善の結果を出す努力を怠っていないか、根拠と納得をもって診断・治療できているかを振り返らせてくれる疾患だと感じています。
山形での6年間
2026.05.15 ブログ
西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
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時代が昭和から平成へと移った1989年、私は山形大学医学部に入学しました。雪の降らない地域で育った私にとって、最初に驚いたのは、受験のため山形駅に降り立った時に感じた、凛とした空気の冷たさと降り積もった雪でした。入学が決まり、アパートへ引っ越しする時も、どれだけ防寒対策をしたらいいかわからず、六畳一間に石油ヒーター2台とこたつ、分厚い二重の遮光断熱カーテンを持ち込み、友人から「過剰装備」と笑われたことを覚えています。一年生の冬、凍結した道で滑って転びそうになる私の横を、地元のおばあちゃんがすたすたと追い抜いていくことも何度もありました。当時はスパイクタイヤがほとんどでしたので、アスファルトが削れ、春になると道路に深い轍ができているのも驚きでした。しかし、長く厳しい冬を抜けると、桜が咲き、新緑とともに一気に春が訪れる素晴らしさは、伊豆にいては経験できないものでした。
当時の医学部のカリキュラムは、2年間の教養課程ののち、医学専門課程に進むものでした。文系出身の私にとって、教養課程の物理、化学、数学などは、ほとんど呪文としか感じないもので、試験も半ば諦めて臨んでいました。幸い単位制であったこと、優秀な友人に恵まれたことで、なんとか無事に専門課程に進むことができました。
医学部の勉強はなかなかハードでしたが、勉強の合間に、春にはお花見、初夏にはサクランボ狩り、秋には馬見ヶ崎川の河原で芋煮会、冬には蔵王でスキーと、四季折々、自然豊かな環境で、沢山の素晴らしい友人と過ごすことができました。6年生になる頃には山形弁もうまくなり、病院での臨床実習で患者さんから山形出身と間違われるほどになっていました。
卒業後すぐに東京・築地の聖路加国際病院に入職し、以来東京で過ごす人生になりました。五十歳を過ぎた今、同窓生たちがそれぞれ責任ある立場の医師として活躍している様子をSNSで見かけるたびに、月日の流れを感じるとともに、学生時代の景色がふっとよみがえってきます。
写真は山形のサクランボです。サクランボ、桃、すいか、ぶどうなど四季それぞれのおいしい果物も、山形での日々を一層楽しいものにしてくれました。友人たちとサクランボ狩りに出かけ、元を取ろうとお腹いっぱい食べて、みんなそろってお腹を壊したことも今では懐かしい思い出です。

咳喘息と気管支喘息
2026.05.01 ブログ
西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
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「以前、咳が止まらなくて診察を受けたときに、咳喘息といわれました」
「私は咳喘息ですか? 気管支喘息ですか?」
長引く咳の診察では、このようなお話を聞いたり、質問を受けたりする場面がしばしばあります。お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、当院のホームページやブログでは、気管支喘息、咳喘息という病名を使わず、すべて「喘息」と記載しています。では、気管支喘息と咳喘息の違いは何でしょうか?
咳喘息の定義は、
・聴診してもぜーぜーという喘鳴(ぜんめい)を聴くことができない
・喘鳴や息切れを伴わず、咳だけが8週間以上続く
・気管支拡張薬が有効
というものです。そして、
・咳が3週間以上続いている場合は診断してよいが、3週間以内の場合は確定診断しない。
とされています。
逆に言うと気管支喘息とは、
・喘鳴、息切れを伴い
・聴診でぜーぜーという喘鳴を聴くことができる
と定義できます。つまり咳喘息と気管支喘息を見分けるポイントは「ぜーぜーと喘鳴が聴こえて、息切れしているかどうか」といえます。
しかし、普通の聴診では喘鳴が聴き取れないことがあります。聴診する時、私は患者さんに「息を思い切り吐いてください」と伝えています。「強制呼気」というのですが、強制呼気をしてもらうと、わずかな喘鳴でも聴き取れることがあるからです。過去に普通に聴診して、咳喘息と診断されたのであれば、喘鳴を聴き逃している可能性もあります。加えて、喘息には日内変動があるため、昼間、来院した時には喘鳴がなくても、就寝時にはぜーぜーしていることもあります。
息切れも同様です。咳がつらい患者さんの場合、自分が息切れしていることを自覚できていないことが少なくありません。「息切れはありません」とおっしゃる患者さんを診察時に注意深く観察していると、呼吸が早く、浅くなっている、つまり息切れしていることがあります。
また、「3週間以内の咳では咳喘息の確定診断はしない」とされていますが、ほとんどの患者さんは、咳が出始めて3週間以内の医学的に「急性咳嗽(がいそう)」と呼ばれる段階で受診されます。「8週間以上続く咳」が咳喘息の定義ですが、辛く苦しい咳を8週間も我慢できる患者さんは、あまりいらっしゃいません。つまり時期的に咳喘息と診断がつかない場合が多いのです。「咳喘息といわれて治療中なのですが、咳が止まりません」と来院された患者さんを診察してみると、咳喘息ではなく気管支喘息だった、ということもあります。
このように、気管支喘息と咳喘息を明確に区別することは難しく、当院のHPやブログでは、気管支喘息と咳喘息を分けずに記載しています。しかし実際の診療では臨床経過や検査結果から総合的に判断して診断・治療しています。
咳喘息についてもう少し詳しく説明すると、咳喘息は気管支喘息の亜型、あるいは前段階とされており、発作を繰り返しているうちに、30~40%が気管支喘息に移行するといわれています。ただし、この30~40%の中には、もともと気管支喘息だったのに、喘鳴と息切れがほんのわずかだったため咳喘息と診断されたケースが含まれているとも考えられます。
咳喘息の治療は、気管支喘息と同様に吸入ステロイド、気管支拡張薬の吸入療法が主体です。治療の中断は、咳の再燃や気管支喘息への移行リスクとなるため、最低でも1年程度、治療を続けることが推奨されています。ただ実際は、咳が止まると治療を中断される方が少なくありません。だからこそ、どうして続ける必要があるのか、続けることでどんな良いことがあるのかを丁寧にお伝えして、納得して治療を続けていただけることが、何より大事だと感じています。
H先生と挑んだ文系から医学部への道
2026.04.15 ブログ
西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
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今回は、私の高校時代のお話です。
市立下田中学校を卒業した私は同じく地元の県立下田北高校に進学しました。明治時代に私立豆陽中学として設立された歴史を持つ高校ですが、普通の田舎の公立高校で、進学校ではありませんでした。ちなみに現在は統廃合して下田高校と名称変更しています。
高校でも中学の同級生らと一緒に吹奏楽部に入り、3年生の時には吹奏楽コンクールで県大会に進むことができました。曲はベルリオーズの幻想交響曲。3年生の夏休みまで部活に明け暮れ、コンクールが終わってから受験勉強を始めるという、なんとものんびりとした受験生でした。進路についても中学時代の夢のまま決めていました。日本史が好きだった私は、「教員免許をとって、中学、高校で歴史を教えながら、吹奏楽部の顧問になりたい」と考え、当然のように文系コースを選択していました。
そんな私が医学部受験を志したのは、3年生の夏休みのことです。なぜ急に医師になりたいと思ったのか――それは精神科医である叔母の影響でした。叔母は下田で開業し、今も現役で診療を続けています。当時の私は、朝早くから夜遅くまで精神科に限らず、すべての患者さんを診療し、往診にも出かけていく叔母の姿に「生涯をかけるに値する仕事だ」と肌で感じていました。
3年生の担任は国語のH先生でした。夏休みにあった進路相談で私はいきなり「医学部に行きたいです」と伝えました。H先生は「何を血迷っているのか」という表情で私を見つめ、「理系の科目をとっていないから医学部を受験することはできないし、そもそも今の学力では足りない。それに私立はお金がかかるよ」と諭すようにおっしゃいました。H先生に「私立に行けるお金はないので、国公立に行くつもりです」と宣言したのを覚えています。
とはいえ私自身も医学部に行ける学力がないことや、自分が選択していない理系科目が必要なことは分かっていましたので、現役合格は無理だろうと思っていました。しかし、時間を無駄にするわけにはいきません。今の私でも受験できる国公立の医学部はないかと受験情報誌「蛍雪時代」を調べました。そして、ほとんどの大学が理系科目を選択していないと受験すらできない中、山形大学医学部の一般推薦だけが受験可能であることを見つけたのです。
すぐにH先生に伝えて推薦状をお願いしました。先生は「神様仏様を思い浮かべて、(推薦状を)書いてみるよ」と快く引き受けてくださいました。また、受験科目について入試要項には「小論文、面接」としか書いていなかったため、H先生は直接、山形大学に問い合わせてくれました。おかげで小論文といっても、英語の長文を読んだ上で論述する形式であることが分かり、そこから先生によるマンツーマンでの小論文の特訓が始まりました。
受験当日、山形大学は雪に覆われていました(人生で初めて見る雪でした)。小論文の英語は、H先生の特訓の成果か、不思議なくらいすんなりと理解できました。同時に「僕がこれだけ分かるなら、みんなもスラスラ解けているのだろうな」と思ってもいました。
合格発表の日。新聞で私が合格していることが分かった叔母が、「合格したよ!」と大声をあげて私の部屋に飛び込んできました。一瞬、何が起こったのかわかりませんでしたが、次の瞬間には「やったあ!」と抱き合って喜んでいました。その夜は興奮してとうとう一睡もできませんでした。
翌朝、眠い目をこすりながら登校して職員室に直行し、H先生に「先生、合格しました」と報告しました。先生はキツネにつままれたような顔で「嘘だろ?」と一言、そして「まさか受かるとは思わなかったけど、臼井なら、もしかしたらと思っていたよ。おめでとう」と言ってくださいました。他の先生方も集まって「おめでとう、よくやったな」と拍手をしてくれました。
このように、私は医学部を目指す受験生として、ありえない過程を経て医師になりました。そんな私を支えてくださったH先生はその後、下田高校の校長になられ、ライフワークの漱石研究や、地元の文学史の編纂などで活躍されていましたが、先日鬼籍に入られました。先生のご冥福をお祈りいたします。
喘息らしさを測る③ 血清総IgEから分かるアレルギーとのつながり
2026.04.01 ブログ
西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
当院の「つながりブログ」をご覧いただき、ありがとうございます。
明確な診断基準がない喘息ですが、「タイプ2炎症」という「かいかいぐじゅぐじゅ」な気道の炎症(ただれ)が主な原因であることがわかってきました。前回、前々回のブログでは、このタイプ2炎症の有無、つまり「喘息らしさ」を持っているかどうかを客観的に判断する3つの指標のうち、呼気一酸化窒素(FeNO)と血中好酸球数についてご説明しました。今回は、3つ目の指標、血清総IgEについて書きたいと思います。
IgEは、免疫グロブリンと呼ばれるたんぱく質の一種で、アレルギー反応と深い関係があります。花粉、ダニなどの異物(アレルゲン)が体内に入ると、まずB細胞というリンパ球がIgEを産み出します。皮膚や気道などには、肥満細胞という細胞があるのですが、IgEはこの肥満細胞に結合します。体内に再びアレルゲンが入ってくると、IgEがアレルゲンを捕まえ、それを合図に肥満細胞からヒスタミンという物質が放出されます。本来、ヒスタミンはくしゃみ、鼻水、涙、咳などを起こすことで体の中から異物を排除する防御機能を担っているのですが、この反応が強すぎるとつらいアレルギー症状になってしまいます。皆さんご存じの花粉症治療薬は、抗ヒスタミン薬と言われ、このヒスタミンの作用をブロックすることで症状を緩和します。
血清総IgEとは血液中にあるIgEの総量のことで、採血して測ります。スギ、ダニ、カビなどいろいろなものに対してアレルギーがある患者さんでは、数値が高くなる傾向があります。アレルゲンの影響を受けるため、数値が大きく上下するのですが、アトピー性皮膚炎がある喘息患者さんでは、常に高い値を示します。IgEの検査には、血清総IgEと特異的IgEの2種類があり、血清総IgEがアレルギー体質の有無や傾向を示すのに対し、特異的IgEはどのアレルゲンに反応しているのかとその反応の強弱を教えてくれます。
喘息に関係するアレルゲンの多くは、花粉、ハウスダスト、ダニ、動物の毛など、気道に吸い込むことでアレルギー反応を起こすタイプのものです。日本人では特にダニが強く関係していると報告されています。血清総IgEと特異的IgEを測定することで、喘息と合併することが多いアトピー性皮膚炎も合わせた治療やアレルゲンの回避、ダニ舌下免疫療法などを行うことができ、喘息患者さんの生活の質の向上につながると考えられます。
私は、血清総IgE値が非常に高く、いろいろなアレルゲンに反応してIgEがたくさん作られてしまう体質(これを「アトピー素因」といいます)を持つ喘息患者です。そのため、様々な刺激によって咳や喘鳴が出て、皮膚がただれたり、かゆみが起きたりしてきました。アトピー素因は、小児期に改善することもあれば、私のように成人になっても残ってしまう場合もあります。私と同じようにアトピー素因を持つ患者さんは「咳が出るのは当たり前」「かゆくなるのは当たり前」の生活を長く続けていることが少なくないのですが、吸入ステロイドや外用薬、注射で行う生物学的製剤を上手に組み合わせて、タイプ2炎症を抑える治療をしっかり行うことで、当たり前だった咳とかゆみの毎日を変えられるようになってきました。そのお手伝いができればうれしく思います。