紫色の手になって学んだ医者の原点
西新宿内科つながりクリニックの臼井靖博と申します。
当院の「つながりブログ」をご覧いただき、誠にありがとうございます。
聖路加病院でレジデント(研修医)として働き始めた1年目の時、私が今も大切にしている、医師としての姿勢を授けてくださったチーフレジデントがいらっしゃいました。チーフレジデントとは、レジデント全体の統括と教育を担うと同時に、病床全体の管理や緊急入院の初期マネージメント、他科からの診療依頼など、診療全体を支える中心的な役割で、研修4~5年目の医師から選ばれていました。大変アグレッシブで、常に努力を怠らず、何事にもスマートで、我々下級レジデントの面倒をとてもよく見てくださった、憧れの存在でした。
その先生から言われた言葉があります。
「医療面接、身体所見、単純レントゲン、心電図、グラム染色だけで勝負できる医者になれ」
グラム染色とは、感染症診療の基本で、細菌感染症の病原体を特定するのにとても有用な検査法です。細菌を染色液で染めて顕微鏡で観察し、何色に染まっているかで細菌の種類を見分けることができます。当時の聖路加病院には、レジデント自らグラム染色を行うことができる部屋があったため、私を含め新米レジデントは、先生の教えに従い、患者さんから喀痰や尿などを採取して集まり、手を紫色に染めながら(染色液の色です)、病原となっている細菌を見つけようと必死になっていました。
その当時でも、超音波検査やCT、MRIといった画像診断はありましたし、現在ではAIが診断のサポートをしてくれるという時代になってきています。しかし、医療面接と身体所見は、医師の技術として基本中の基本です。患者さんの話を丁寧に聞き、手を当てるだけでわかることがたくさんあります。
また、単純レントゲンや心電図を読影、判読できることは、内科医にとってとても大切な能力です。これらは、大きな病院でなくても行える、とてもアナログな検査ですが、必要最小限の武器として重要な役割を果たしてくれます。その結果、精密検査が必要と判断した場合、当院では専門の臨床検査技師による超音波検査や24時間ホルター心電図などを行っています。また近隣の検査専門センターと連携してCT、MRIなどの画像診断を行い、その結果を説明することも可能です。
患者さんにとって最小限の負担で、そのため情報が限られるとしても、最大限の結果を出す。それが我々医師に最も求められていることです。グラム染色は、当院に検査設備がなく、臨床的な有用性も薄れつつあることなどから、さすがに現在は行っていませんが、先生に教わった言葉を胸に、医師としての基本姿勢を忘れず、これからも地道に努力していきたいと思います。
ちなみにその先生はいま、某大学の教授として活躍されています。